2018年7月5日木曜日
剣客商売全集(4)感想の2
全集4巻の後半は通常の8巻の「 狂乱 」(毒婦、狐雨、狂乱、仁三郎の顔、女と男、秋の炬燵)
剣客商売は全16巻らしいのでついに折り返し。この巻、いろんな女性が登場します。
毒婦、題の通り、女がこの回のメインです。
その昔、小兵衛なじみの料亭不二楼で座敷女中をしていたおきよが殺され、調べていくうちに。
この女が自分と関係を持った男を強請ってお金を巻き上げる毒婦であることががわかります、まさかと思う人もその被害にあっていたりします。
おきよは小兵衛の見かたでは、暗く陰鬱な雰囲気であまり魅力的な女性ではないようなんですが。
狐雨は一種の超常的なSFファンタジーものではありますが。時代劇としては異色。ま、夕鶴のような感じか。
同じ無外流の杉本道場の2代目杉本又太郎の身に起きた不思議なできごと。
ついに大治郎に三人目の弟子が誕生します。ちょっと面白いですが、ワケありの杉本又太郎。
狂乱、は久しぶりに登場した牛堀九万之助の牛堀道場を訪れた小兵衛。たまたま出くわした無敵流の石山甚市の道場破りの場面からはじまります。
石山甚市、もとは藤堂家の足軽でしたが、今は大身旗本の家人になっている。
この石山甚市、両方の家で疎まれてきた。それもこれも、身分の低い石山甚市が強すぎたため。
石山はそのせいで、心を病み性格がねじ曲がってしまう。あたかも気ちがい犬のような。
ただ彼にも厚生する機会がなかったわけではない。秋山小兵衛はその胸中を思いやり声をかけてやろうとする。
だが、一足遅く、侍は狂暴な血の命ずるまま無益な殺生に走ってしまう。
最期は人生を取り戻せる最期の機会となるはずだった声をかけてくれた小兵衛によって最期を迎え、これが石山の顔なのか、と思うほどに穏やかで美しく童子のような表情で絶命する。
仁三郎の顔、傘徳が熱を出して寝込んでいる所に、岩戸の繁蔵が知らせたのは、黒羽の仁三郎が江戸に戻ってきているというものだった。
このことを佐平に知らせなければと徳次郎は病んでいる体に鞭を打って知らせに行く。黒羽の仁三郎は佐平を狙うと考えたからだ。
一方、秋山大治郎はこの黒羽の仁三郎を助けたことがあるという奇妙な縁もあり。
女と男、
かつて小兵衛の門人だった高瀬照太郎が登場します。門人仲間の井口伴之助が語るには、高瀬は同じ長屋の同輩の妻と姦通。あいびきの現場をその同輩滝口嘉四郎に見られて、高瀬は滝口を殺害。
滝口には子がおらず、滝口家も高瀬家も取り潰しになります。
小兵衛はたまたま、高瀬と滝口の妻女だったおんなが言い合いしている場面に遭遇。
妻女は出会い茶屋で客の相手をする女になっており、未練を断ち切れない高瀬がつきまとっているが、すげなくされ。
実は高瀬は体を病んでいて、女に突き飛ばされて起き上がれないほど衰弱していた。腹を切りかけて負傷したところを小兵衛に救われる。
結局最後は小兵衛に手厚く見守られながら、高瀬照太郎はしずかに息を引き取る。
この回、小兵衛の妻になったおはるの船さばきの腕がいかんなく発揮されます。
どの回でも、そうなんですが、小兵衛の一瞬の張りつめた場面と、おはるのゆるいほんわかしたかんじがうまくバランス取りながら両立しているのが素敵です。
この回はとくにおはるさん活躍。
池波さんの女性観がよくわかる回でもありますね。おはるさんのように、じょせいにとってはそんなことはない、という人もいるでしょうけど。
自分は何となく共感しますね。
秋の炬燵
久しぶりに根岸流、手裏剣の名手、女武芸者杉原秀が活躍する。
彼女が押上村の父の墓に墓参り行った際、まだ4~5才の男の子が殺されそうになった場面に遭遇し子供を救う。
子供は日本橋の木綿問屋伊東屋勘次郎の息子。しかし勘次郎は妻を亡くし、子供の母親も子供を産んですぐに亡くなる。後妻に入った女は女の子を産む。
恐らく、この後妻にとって、男の子が邪魔になったのでは。
この事件には香具師の元締、白金の徳蔵が絡んでいる。徳蔵のもとには腕利きの浪人大野庄作がいる。彼は小兵衛が過去若いころにに腕を認めていた同じ無外流の矢部彦次郎の道場の門人で、
一度、小兵衛と木剣で対決したことがあったが、小兵衛のすさまじさを身をもって知っていた。彼はこの時の挫折で身を持ち崩して、徳蔵の手下になって金で人殺しをするようになってしまった、と言ってもいいかもしれない。
大野浪人は小兵衛が絡んでいるとわかり、自分はこれ以上手を出せない、白金の徳蔵に手を引くように言うが、白金の徳蔵は小柄の老爺の小兵衛を恐れる大野浪人がわからない。
結局小兵衛や弥七が徳蔵一味を罠にかけ、大野浪人は杉原秀の手裏剣「蹄」によって絶命。白金の徳蔵一味は弥七によって徳蔵以外はすべて捕らえられる。
事件の真相はやはり、伊東屋の後妻おさいとその叔父松屋安右衛門がかかわっていたものらしい。
この江戸時代、の犯罪はすべて連帯責任犯人だけの処罰にならないらしい、ということで恐らく、後妻の悪行に気づかなかった子供の父親である伊東屋の責めは大きい。
最期まで明らかになりませんけど、子供にとって大変な不幸な結末になりそうなことは示唆されています。
小兵衛も「どんなお裁きになるかのう、伊東屋の始末次第ではあの文太郎坊ずも、またまた可哀相なことになるわえ」と心配。
小兵衛の弥七にかたった最期のセリフ、「どいつもこいつも、大人がたわけた真似をするおかげで、ばかを見るのは子供たちじゃな。いつの世にもこのことは変わらぬ。呆れ果てて物もいえぬわえ」
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