2016年9月30日金曜日

それからの三国志 内田重久

(2015.2.10~4.5 読了)


三国志で描かれるのはたいてい孔明の死までです。
最終的なクライマックスを孔明の死という主人公の悲痛な死で迎え、
頼りない主君劉禅と、孔明と比べれば質も下がり、数も多くない人材しか残っていない蜀の前途を、絶望と憂いの中で物語は終わります。
読者はただ、三国の結末を簡潔に述べた文章でしか知ることができませんでした。


三国は、晋一国となった。
(吉川英治 三国志 より)


その後の世界がどのように移ろい、あれほど人材に恵まれ優秀な君主が続いた曹一族の魏すらも残らず、三国のどの国でもない晋が統一を果たしたのか。
興味がない人はいなかったと思いますが、意外とそれを扱った小説を見たことがありませんでした。
今回読んだ本はその欲求を満たし、なおかつ文章にけれん味がなく素直に読める小説でした。
特にその時代の文化などを細かく調査し、著者の分析を交えて綴られています。この随筆風の説明や描写が、その時代の状景に彩を加えて浮かび上がってきます。
その調査内容も深すぎず浅すぎず、程よいバランスでちりばめられている。
これと似たような感じで、司馬遼太郎氏も程よく「余談だが、・・・」と入れてきます。
ま、司馬さんの場合、余談がひとつの短編くらいのボリュームになることもありますが。
この本の主人公が誰かと言えば私は姜維だとおもうのですが、本作の山場は蜀滅亡のくだりでしょう。
蜀を滅亡させる2人の名将、鍾会と鄧艾の相克と、鄧艾が秦嶺を超え四川盆地にいたるまでの経緯、そして蜀の降伏。
実はその滅亡間際では主人公姜維は剣閣に篭り、大軍を率いる鍾会と持久戦の構えをとっており活躍する場はほとんどありません。
鄧艾に虚を衝かれ、先に成都が落とされ劉禅が降伏したため、彼もやむなく眼前の鍾会に降伏します。
むしろ、蜀滅亡後に鍾会をたぶらかして蜀漢再興を狙いあれこれ手を尽くすのですが、、、、。
なかなかドラマチックで、見ごたえのある部分です。
驚いたことにこの本の著者は本職の小説家ではありません。メーカー勤務のサラリーマンだったそうです。
この本の前身となる本を、ただひたすら三国志が好きだった、というだけでサラリーマン時代に自費出版しています。
わたしはなかなか傑作だとおもいました。




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