2018年10月6日土曜日

剣客商売の番外編「ないしょないしょ」の感想

颱風コンレイは過ぎ去っていきました。
若干風は強かったですが、雨は思ったほど雨量はありませんでした。
土曜の夕方ですが、既に雲の間から日が差しています。
散歩するかどうか悩んでいるところです。

今回、剣客商売の番外編「ないしょないしょ」の感想です。
これまでのように、多くの部分、あらすじを追っています。
ネタバレになりますのでご注意ください。

従来のような短編集と思っていましたが、全集と違って、単行本サイズなので、全体としてはこれまで読んできた全集の半分ほどのボリュームですが、実は短編ではなく、剣客商売の舞台で一人の女性「お福」を主人公とする長編です。
「剣客商売」と題するには、異色です。
通常「剣客相伴全集」の1巻、1巻は単行本サイズ2冊分を1冊にまとめています。
これまでに全集8巻まで読み終えました。
実は全集のほうは、8巻の次にあたる、黒い装丁の「別巻」があるのですが、これは「村上海賊の娘 下巻」読み終えて読むことにしましょう。
先日ちらっと目次だけ見たら、「黒白」と言う長編一遍のみのようです。
ないしょないしょは、単行本の順番としては、8巻の浮沈の次、黒白の前のようなので、ちょうど良かったです。
あー今年最後の楽しみだな。


始まりは 新潟、新発田藩で剣術道場を開いている剣客神谷弥十郎の家での出来事から始まります。ここの下女の名前はお福。
年は15~6歳。この神谷の家にはお福と下男の老人五平の3人しかいません。
神谷は道場での指導ぶりが激しく、下男の五平は弟子への指導を手加減しないと道場が成り立たないとこぼしています。
お福は両親ともに既に亡く、身寄りが一切ない天涯孤独な境遇。主の神谷の指導ぶりを見て恐ろしい、と思い戦々恐々とした日々を過ごしていましたが、
ある夜、下男の五平が使いに出され、神谷とお福の二人きりの時、神谷はお福を襲い、さんざんなぐさみものにします。お福も恐怖で終わった後に生きていれば、命あることに安どしています。
神谷がお福を襲うことが何回か続き、下男五平はとにかくしんぼうしろという。
お福はいつしかこの報復で、いつも作っている朝餉のネギの味噌汁にネズミの糞をいれることを思いつき、これを実行します。
神谷は味の違いに気が付きますが、お福の仕業であることに気が付きません。
しかし、ある日神谷はお福の仕業に気が付きますが、お福を解雇することもなく、「肝が太いことをする小娘」、といって意外にもそのまま放置します。
作中にも、「手討ちにあっても文句は言えない」とある通りなのですが。
ある日、神谷は五平に何事か言って外出し、そのまま何者かに弓矢で殺害されて戻らぬ人になります。
あれほどひどい主人なのに、五平はその死に泣きます。五平にしかわからない、神谷の人となりがありそうです。
五平は甥が江戸に居て呼んで世話をしてくれるはずだからと、お福を誘って江戸に上ります。
五平の甥久助やその家族もよい人のようです。五平は過去に江戸で10年ほど生活したことがあり、その際働いていた店伊勢屋で甥久助も働いており、以前の五平の伊勢屋の主人も隠居ながら健在で、五平の戻りを待っています。
五平は過去、この店で女と金が関わる不祥事を起こしたことがあるのですが、お金は久助を通して返却している模様。先代の伊勢屋のご隠居は全く気にしていない様子。
五平は伊勢屋で先代のご隠居に仕える下男として働きだし、お福は五平の紹介で三浦老人のもとで小女として働くようになります。三浦老人、元侍らしいのですが、小兵衛のような雰囲気をもっています。
ただし、刀はからっきしだめなので普段大小を身に着けていません。
お福は新しい環境と江戸の生活に慣れはじめたころ、三浦老人の密かな朝の稽古の姿を見ます。三浦老人は根岸流の手裏剣の使い手でした。
根岸流の手裏剣と言えば、本編で登場した杉原秀、ですがこの巻では杉原の文字は出てきません。秀も登場しません。
お福が三浦老人の小女として働き、三浦老人から根岸流の手裏剣の稽古を受け始めた頃。このお福もただの百姓の娘ではありません。
三浦老人から手裏剣のてんびんがある、と言われています。
このけいこのさなか、本の題名にかかわる三浦老人のセリフがあります。
「女だてらに手裏剣をやっていることなど、世間に知れたら、嫁の話もなくなる。よいか、このことはないしょ、ないしょだぞ」と三浦平四郎は厳しい顔つきになった。
三浦老人の知り合いとして、ようやく秋山小兵衛が巻の1/3ほど進んだところで登場。三浦の家を訪ねてきて、お福とも出会います。
秋山小兵衛、本所の医師小川宋哲先生が登場して、ようやく剣客商売らしくなります。ただ、この時点で、小兵衛は50歳くらいで、搭乗の時点ではおはるとは結婚していないようです。ということはまだ時系列的には1巻くらいかも、いや、その前かもしれません。
1巻は小兵衛が60歳だったような。おはるは19から20くらいだったような。
このあたりから、お福は夢の中で、自分を襲った前の主人の神谷を見るようになる。神谷は悲しそうににうなだれています。
そして、五平が務めていた伊勢屋の先代の御隠居伊兵衛が亡くなります。
伊勢屋の当代は既に清算済みであった五平の過去の過ちが許せず、先代が可愛がっていても気に入らなった様子。
このことに、お福は心を痛めます。
案の定、先代が亡くなって通夜の日、伊勢屋の当代は五平を首にします。そして五平は姿を消します。
五平は自殺するつもりでしたが。辻斬りにあって、運よく、秋山小兵衛がそこに居合わせて、辻斬りを追い払い命を救われます。
三浦老人はお福に手裏剣の一種「蹄」をお福に教えます。
五平さんは秋山小兵衛の口利きで、小川宗哲先生の下男として働くことが決まりました。
五平さんはお福に神谷の秘密を告げます。それは神谷の妻が亡くなった理由でした。神谷の妻は自害したのでした。
お福は三浦老人が通う蕎麦屋で行われる碁会所に出入りする浪人に見覚えがあり、名は松永市九郎といいました。
話が前後しますが以前にもお福が見かけています。五平の話によると、松永市九郎は新発田藩で御前試合を神谷と松永が行った際に神谷弥十郎は松永に勝ったことがあり、噂や五平の見立てではこれを恨みに思って松永が神谷弥十郎を殺した。神谷が殺された後、松永が城下から姿を消しこの噂がなおさら信ぴょう性をもって城下に広まったそうな。
その松永が三浦老人が通う場所と同じところに出入りしており、三浦老人からも碁を打っている相手が松永であることが判明する。
お福は五平にこのことを相談しようとしますが、すれ違いが起きます。お福と五平が三浦老人の家に向かった時、残念ながら、三浦老人は碁の勝負に負けたことを恨んだ松永に殺されます。
この三浦老人宅に向かう途中、五平はお福に秘密を明かします。
秘密は神谷の妻が自殺した理由です、神谷の妻は松永によって手籠めにされたのでした。そのことを神谷弥十郎は詳しくは知らなかったがうすうす知っていたのではと五平は話します。
五平はその現場を見てしまい、松永とも目があっています。
松永が三浦老人宅に置き忘れた番傘によって、本所の目明し金五郎の調べで、殺人の下手人が松永であることが確定します。お福は五平の江戸での友人、倉田屋半七のもとで下女として働くことが決まります。
そんななか、松永のほうは五平に気が付き、神谷の下男五平であることにも気が付き、新発田の一件のこともあり、五平を斬るつもりになります。
そして、ついに五平は宗哲先生使いで薬を届けていった帰りに松永に斬られ死んでしまいます。
お福は一人ぽっちになってしまいます。小川宗哲先生はお福に、自分を親と思って頼ってよいとさえ言ってくれます。
お福の周りは良い人ばかりなのですが、それはお福の心根が真っ直ぐなせいじゃないかと思いました。
三浦老人、五平亡きあと、
五平が亡くなる前、五平が以前江戸で生活していた際に縁があって五平の友人といっていい、倉田屋半七のもとでお福は下女として働くことになります。倉田屋半七は出会い茶屋のオーナーという立場。実際の経営は半七の部下の富五郎がやっていて、半七は宗哲にも誓った通り、お福をお店の表に立ち入らせません。
しばらく後、松永は五平の事件以降、江戸の町を去ったかと人々には思われていました。半七はいろいろな手を使って松永の行方を探っていて、ついに松永が江戸に姿を現したことを知ります。
半七とお福の間に、互いを大事に想う気持ちがあることをお互いに知るようになるのですが、これは男と女の関係、というのではありません。
お福は江戸に来て、4年の月日が経っています。
松永の姿の情報を耳にして、お福は、いったんあきらめていた、3人、神谷、三浦、五平の仇討を自分の手で成し遂げたい気持ちを改めて確認します。
そんな中、突然、本当に突然、半七がある日の明け方、心臓の発作で、お福に抱きかかえられながら息を引き取ります。
半七の病は宗哲先生も良く分かっており、いつかこうなることはお福にも話していました。
半七の通夜に宗哲先生が、「わしのところへ、いつ、帰ってきても良いのだよ」と言われ目に熱いものがあふれてくるお福でしたが、
神谷は別としても、三浦老人、五平、倉田屋半七と、お福が関わりあった人たちが、つぎつぎに死亡していくのはどうしたわけなのだろうと、お福は思い、「もうどこかへ奉公するのはやめよう」と思い決めます。
そして、お福は、半七の跡を継いで、出会い茶屋の女主人として生きることを決めます。
お福の態度も、それまでの下女として生きていた20そこらの女ではなく貫禄も出てきて、お福の中でなにかがかわったかのようにどうどうと、女主人をやっていけるように見えます。
そして、お福が久しぶりに手裏剣の朝稽古をやってみますが10回投げて10回とも的を外してしまいます。2年間の空白は思った以上に大きいようです。
そして稽古を続けたある朝3度目の十本のうち7本が命中し、さらに十本投げると8本命中。翌朝のけいこの結果も良く、お福にようやく自信が戻ってきました。
そんなある日、料理屋から出てきた松永の姿を他でもないお福自身が見かけます。あとを付けて、湊屋という蕎麦屋に二人の仲間とつれだって、入っていき、お福も後から入り、3人を見張ります。そこへお福の肩に手を置いた男がいます。これが秋山小兵衛。
別の目的の途中で腹ごしらえするため湊屋にはいった小兵衛はお福の姿を見かけ、お福の様子にただならないものを感じ、お福に「あの3人の浪人の中にもしや三浦先生を殺めた男がいるのではないか?」
小兵衛は宗哲先生から詳しく事情を聞いていました。
「あの中の一人が、松永市九郎なのだな?そうだな、どうじゃ」
お福はうなづきます。
小兵衛が「居所を突き止めたらどうするつもりか」と聞いたとき「うらみを、私の手で、はらしたいのでございます」と告げます。
そして、この後、小兵衛が3人のあとをつけ居所を突き止め、倉田屋でお福と落ち合います。
最終的に、お福は松永の左目と背中に手裏剣を突き刺し、そのあと、小兵衛のたすけにろうにんのひとり加藤浪人の右目にも手裏剣を投じ、小兵衛にこれまでといわれ、小兵衛が松永以外の浪人を倒し、松永は弥七親分にお縄になり、二人の浪人も捕らえられます。
小兵衛は「お福、これでよい」「女のお前は、人を殺めぬほうが良いのじゃ、人を殺めた女は、不幸になる。あとはこの男たちをお上にまかせようではないか。いずれ、きびしい処刑を受けることは必定だ。敵(かたき)はりっぱにとった。三浦先生もよろこんでおられよう」
事件の後、お福は何事もなく普通の生活に戻る。これは小兵衛の指図もありました。
そして、お福は富五郎に頼んで、生まれ故郷の新発田への旅に出ます。この旅で、お福と富五郎は心を通わせます。新発田で、お福は両親の墓を建て、木の墓標だけだった神谷の墓を建て永代供養を寺に頼み。
その翌年の春、お福は秋山小兵衛の隠宅を訪れ、富五郎と夫婦になることを報告します。
それから5年後、富五郎が亡くなります。
お福は自分に関わりあいを持った人が次々と亡くなっていくことに、もう男と関わり合いたくないと、小兵衛に告げて
突き詰めて考えてしまい
さらに9年後、突然、お福は小兵衛のもとを訪れます。「秋山先生。まことにもって面目もないことながら」
小兵衛は「男ができたな」とズバリ言い当てます。
小兵衛はお福の後押しをして、
以前からお福が贔屓にしていた呉服屋の白木屋の主の後添いになることになります。
ここから最後のページまで3ページほどですが、あっという間。です。お福は風邪をこじらせて亡くなるのですが、
最後の描写が、まことにせつない。白木屋の主人、宗哲先生、小兵衛にも看取られながら、亡くなる直前、夢の中で神谷弥十郎の姿を見て、お福は「旦那さん、すぐに旦那さんの側へいきますよ。」と声をかけ。神谷もお福を見てにっこり笑う。
「みなさん、お先に」
とつぶやいて、最後を迎えます。
「ないしょないしょは」はお福の人生を15から亡くなる36までの間を、そのまま描いた作品でした。
おそらく、小兵衛の最後は描かれませんが、およそ、このようなせつなさをもってむかえたのではないだろうかと思いました。
切なさは、人の死、その者にあるのではなく、それまでの登場人物の人生の裏も表もすべて読者は共有しているので、その人の人生を振り返ることができて、あっという間の長かったような短かかったようないろいろなことがあった人生のさまざまなストーリーを振り返り、万感の想いが去来する切なさ。なのではないかと思いました。
お福は苦労もあったけど、最後夢で会った人は、生前、想いを共有した半七ではなく、笑顔の神谷でした。意外感はありました。女の心はわかりません。
ただこのことに、彼女はすべてを許して自分の心を解放して楽にさせたんだな、と思いました。

この本は女性が読んだ感想を聞きたいところです。


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