2018年7月4日水曜日

剣客商売全集(4)感想の1


全集4巻は(通常の7巻)
「隠れ蓑 」(春愁、徳どん、逃げろ、隠れ蓑、梅雨の柚の花、大江戸ゆばり組、越後屋騒ぎ、決闘・高田の馬場)
春愁 は12年前に起きた事件が発端になっています。小兵衛がかわいがっていた弟子が殺された事件。この時の弟子を殺した下手人と思われる浪人を
当時小兵衛と付き合いがありその弟子をかわいがっていた刀屋が江戸の町で見かけます。この刀屋の嶋屋孫助は人相手相を見てよく当たるらしい。
60を超えた小兵衛を久しぶりに尋ねた際に、あと30年生きる、と言う。小兵衛は90まで生きるのか。。。
物語後半、12年前の事件に絡んで、その可愛がっていた弟子に殺されるにいたるきっかけと言える事件があり、不審なこともあったのですが、
小兵衛もそのことを思い出すにあたり、
「ああ・・・・わしも、いまこの年齢になってこのようなことを思い出そうとは・・・まだいかぬな。まだ、わしはだめな男よ」それが哀しい。
と嘆じます。我が息子ともおもい、念を入れて仕込んだ愛弟子への疑いを消すことができぬことが、さびしかった。
時の老中、田沼意次の気に入りで、人生の達人、といえるような活躍を見せている秋山小兵衛ですが、ひょうひょうと過ごしているように見えて
こういうところがあるのでしょうか。先述のいのちの畳針の植村友之助とのくだりとは対照的です。
徳どん逃げろでは、題の通り、四谷の弥七の子分の傘屋の徳次郎が大活躍。鬼平犯科帳のようなかんじです。
これまでも傘徳さんは地味に活躍してましたけどね。
傘徳が密偵のような活躍を見せるのですが、傘徳に騙されて死ぬ羽目になった盗賊の八郎吾について、四谷の弥七が事件後、小兵衛に
あれだけのおとこがよく傘徳を信用したものだ腑に落ちないと話すのですが、
小兵衛は微笑をたたえつつ、「勘違いというものさ」という。
「人間という生きものは、だれでも勘違いをするのだよ。」「ごらんな。太閤、豊臣秀吉や、織田信長ほどの英雄でさえ勘違いをしているではないか。
なればこそ、あんな死にざまをすることになった。わしだってお前若い女房なぞをこしらえたのはよいが、それも勘違いかも知れぬよ。」
世の中は勘違いで成り立っている、という下りは確か他にもあったような気がします。
これは今の世の中でも十分納得がいく真理のように思い当たります。
ひとと人のあいだのコミュニケーションが、それこそ、エスパーでもない限り、100%分かり合える、ということはあり得ません。
どこか、思い込みだったり、先入観というものが邪魔して、そういったことが理解の土台になっている以上仕方ないのですが。
ただ、それがつまるところ誤解の種になる。仕事上や、家族の会話ですら、そういったことが往々に起こる。
それだけに人の心を読むことがなんと難しいことか。
良かれと自分がそう思うのだから、人も良いと思うだろうとか、絶対そうあるべきだと思い込んでしまうことのなんとおおいことか。(特にうちの親)
人間、勘違いするいきものであると、ひととはそうしたものだと、思いなしてつつましく生きていくことが大事なんでしょう。
(というくだりがどっか、以前によんだところにありました。 それだけ人間の勘違いで引き起こされるドラマがいくつもあり、そこに小兵衛のような人物に勘違いを語らせるのは、池波さんの哲学の一つなんだろうと思います。
人間そもそも別の環境に生き、価値観も心も多様で同じように考え、思う訳ではないそれがわからず、暴力に訴えたり、しつこく付きまとったり、という世上の事件がなんとおおいことか。
隠れ蓑の話は、一種のなぞかけではありましたけど、最後まで読んで、ああ、この二人はそういう関係だったのか
柚の花は、結婚した秋山大治郎の道場に新しく加わった弟子、笹野新五郎の話です。
それまで、飯田粂太郎少年しかいなかったのですがようやく二人目の門人。
大治郎の父、秋山小兵衛も辻平右衛門から受けた無外流ですが、もちろん秋山大治郎も平右衛門から教えを受けた無外流。
この流派の修行の初歩はとにかく延々と重い(2貫目、3貫目)木の棒を降り続ける作中では「振り棒」という。
(ググったら1貫目=3.75K)
初心者は朝から晩までこれを何日もやらされる。これをやることで体の基礎を徹底的に作ることから始まりますが大概飽きるし、続かない。
なので、大治郎の道場もしばらく弟子がいない時期が長かったのですが、
笹野新五郎は10日やっても飽きることなく続き、大治郎も、これは、と期待します。笹野新五郎は老中田沼意次の用人、生島次郎太夫からのたのみであずかることになります。
笹野新五郎は三角形の顔の半分から下に顔の各パーツが集まっているまたとない異相の持ち主。
彼はまさかの人の子であることが最後の最後に明らかになりますが、
これはおそらく本人は死ぬまで知らされることがない日の目をみない作者と読者シカ知らない真実なのでしょう。
越後屋騒ぎ、は神田の蝋燭問屋の大店、越後屋の子供がかどわかされる場面にたまたま行き会った小兵衛が子供を救うところから始まります。
越後屋の内部の内紛。
決闘・高田の馬場は、旗本の大身の殿様のきまぐれで始まった命がけの剣術の試合に、小兵衛の元門人の吉村弥惣治が関わりをもつことから
大治郎と父小兵衛が一芝居をうち、吉村を助けます。

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