2018年8月3日金曜日

剣客商売全集(7)前半感想 


今日から熊本は火の国まつり開催中。
正確には7/21から地味に始まっていましたが。
平成最後の火の国まつり。
熊本市の大きな夏祭りですねえ。
熊本県、でいえば、今日、玉名で花火やってます。
再来週8/15, 8/16、山鹿で山鹿灯籠まつりあります。
いつも、見に行ってみたいなあ、と思っているのですが。






山鹿灯籠まつりのサイトから。
こんなのを見ると、実際に、目の前で見たいと、ワクワク思うじゃないですか!!






さて、本題。
7巻前半「波紋」 その1 (消えた女、波紋、 剣士変貌、 敵、 夕紅大川橋)

感想というかあらすじそのままなのでネタバレです。ご注意ください。




消えた女、
小兵衛の過去を振り返るもの。
小兵衛は同門の辻平右衛門道場で剣を学んだ40年に及ぶ交誼の松崎助右衛門宅を訪れていた。
帰宅の途中傘徳に出会う。傘徳と四谷の弥七は囮を使った捕り物の最中だった。
そこで小兵衛が見た囮の小娘は、かつて20年前、小兵衛の家で働いていた下女のおたみにそっくりだった。
この回で、これまで活躍のあった、弥七の上役の町奉行所の同心永山精之助が殺されて死んでしまっています。その犯人を捕まえるべく、おたみに似た小娘を囮にした捕り物になっています。傘徳に垂れ込んだ密偵は岩戸の繁蔵です。彼が言うには、永山同心を殺したのは、山口為五郎という浪人。山口はかつて弥七と傘徳が取り逃がした大きな承認を相手に恐喝を続けていた悪人。
小兵衛と下女おたみの間にはわずかではありますが、体の関係があり、小兵衛もこんな女と末永く暮らすのもわるくない、と思ったことあった関係でした。
捕り物は、山口は小兵衛に追い詰められ、たまたま通りかかった騎乗の侍の馬に蹴られて死んでしまいます。
のちに、囮の小娘おみつは、おたみの娘だと判明。弥七が語るには、おみつは母親のおたみの言葉を覚えており、「お前の本当のおとっつあんは、江戸の立派な剣術使いの先生なのだよ」こうささやいて、おみつを抱きしめ忍び泣きに泣いたという。
おたみは、ほうぼう流れて、山口浪人のおんなだった時期もあったようです。すでに病死しています。
おみつは16歳なので、小兵衛のむすめではないことははっきりしていますが、これを聞いた小兵衛は凝然となった。
いろいろ思うところや、薄幸の末、娘を残して病死したおたみの身の上を考えて
迫ってくることもあったでしょう。
「ですが先生、おたみは何故我が子にそんな嘘をいったのでしょう」と問いかける弥七に、小兵衛は、「おたみはわしに惚れていたらしいのう」とほろ苦く笑いを浮かべて答えます。

波紋
秋山大治郎は碑文谷の法華寺に病臥している小兵衛と旧知の老剣客藤野玉右衛門の見舞いに訪れますが、その帰りに、弓を射かけられ襲われます。剣で襲う浪人もいましたが、大治郎が顔を斬り撃退します。
襲撃されるのは、剣客のさだめ
顔を斬られた浪人は関山百太郎という浪人で、なんと、傘徳の飼っている密偵、岩戸の繁蔵の兄の家に潜り込んでいます。
この兄の妻が女郎上がり、百太郎を家に連れ込んでいたのです。この妻と百太郎が肉体関係を結んでいて、それに憤った、繁蔵の兄がある夜、百太郎のはらに包丁を突き刺し、殺してしまいます。その後、兄は繁蔵の家に転がり込みます。
繁蔵は犯行のあった兄の家に様子を見に行きますが、その際、かつて自分の上司を斬殺した井上権之助を見かけます。この井上、ある賭博場で騒ぎになった際に岩戸の繁蔵の左腕を斬り落とした本人です。
場面が変わり、大治郎は無防備にも、庭先で肌kで水を浴びて汗を流しているとき、再び襲撃者が現れます。これが弓をつがえた井上権之助。
これは、気にしていた小兵衛が放った石で防がれ、最後は大治郎に首筋を手刀で打ち据えられて、捕まります。
事件の起こりはある旗本が老百姓を痛めつけているところに、大治郎が通りかかり、この旗本を懲らしめたところにあり、逆恨みをした旗本の殿様が仕組んだことでした。
最初は大治郎の襲撃に始まりますが、岩戸の繁蔵の兄の事件や、繁蔵の腕をきりおとした井上浪人が登場したり、まさに波紋のように事件と事件がからみあって、波紋のように広がっているように展開していきます。
池波さんの文章はは基本的にシンプルで、テンポよく進むので、このように複雑ないくつもの事件が絡み合っていても、苦もなく読んでいけます。
さて、最後のほうで、小兵衛がまたもや、金貸し幸右衛門の遺産で岩戸の繁蔵へ更生の手を差し伸べるところで話は終わります。

剣士変貌、
橋場の船宿の鯉屋で小兵衛は菓子店、笹屋の後妻と一緒にいた侍に
見覚えがあった。かつて、剣術指南をしたことがあった横堀喜平次だった、横堀はかつて、小兵衛と親しかった中西弥之助が開いていた中条流の中西道場の食客だった。旧知中西のつてで、小兵衛も横堀に県の指南をしたことがあったのだった。その時は横堀も人懐っこい好男子だったが、その後、横堀が麻布に道場を開くことになり、小兵衛、中西弥之助も、これの行く末を危ぶんだ。3年ほどは道場も評判も良かったものの、3年後に、横堀は門人の一人を斬り殺して道場を捨てて逐電した。
小兵衛は、この菓子店の後家と横堀の二人の関係を訝しながら放っておこうとしましたが、
長虫の甚九郎という悪事を繰り返す浪人が登場。この男はかつて小兵衛の道場に来たことがあったが、たまたま居合わせた横堀喜平次にさんざん打ち負かされています。小兵衛が甚九郎をひっ捕らえようと後を追うと、なんと、横堀喜平次の家に入っていきます。
こうなると一旦、放っておこうとした横堀のことが放っておけぬことになります。小兵衛はいつもの四谷の弥七や手下の傘徳を頼ろうとしますが、二人は別の御用聞きで小田原に行っており不在。しかたなくこれまた、これまで何度も登場してきたなじみみの御用聞き、北大門の文蔵親分に相談します。またこのあたりから、秋山親子と親交のある早稲田町の町医者、横山正元登場。町医者でありながら秋山親子と同様に無外流の使い手。
文蔵や又六や正元が見張るなか、甚九郎や横堀喜平次は何を企んでいるのか、
小兵衛は何となく感づいてます。
小兵衛は。菓子店笹屋に近い市ヶ谷に井筒屋という茶問屋の隠居、内山文太のもとにもぐりこんで、見張りを始める。内山文太も秋山小兵衛と同じく、辻道場の門人。
そこに、甚九郎と横堀らが市ヶ谷に向かっていきます。
雨の降る中、横堀らが菓子店笹屋に着く。すると、笹屋の後家が裏の通用門を開ける。
ここで小兵衛登場。集まった浪人12人および、甚九郎と横堀喜平次を取り押さえる。
喜平次も小兵衛の前に屈し、激しく泣き始める。
横堀らを手引きした、笹屋の後家は実は、横堀の実の妹だったという真相が明らかになります。
横堀ほどかつては好人物だと思われて、剣術への情熱も人一倍あった男がこのように落ちぶれてしまう理由について、小兵衛は、なまじ道場主となったばかりに、われより強き者に打ち叩かれることを忘れてしまった。いや、嫌うようになった。道場主としての自信を失うことが怖かったにちがいない。それでいて、これでよいのか、弱いものだけを相手にしている、いまのおれは、これでよいのか。その不安につきまとわれていたに相違ない。
事件があらかた片付いたとき、弥七らが小田原から戻ってきます。ここで小兵衛が
「弥七、芝居の幕は、もう閉まったわえ」と告げます。
人が、人品を保っていくことの難しさを伺い知ることができました。
特に、剣術使いというものは、自分自身と戦っていくことが普通の人よりすこしばかり大きいのでしょう。
今の世の中でも同じく。人はいつも自分自身との闘いがあります。心の弱い部分というものがどんな人でもあるのです。いくら鍛えても鍛えられない部分であるだけに、つねに磨いていかなければならないのが心、と言うこともできるでしょう。

敵、
小兵衛も贔屓にしている、浅草の料理屋「嶋屋」の門前で、店から見送られた立派な風采の侍の客が、背の高い浪人にこん棒で首筋を叩かれ気を失う。
襲った方の浪人は中沢春蔵という名前で、缶で雇われているようです。
さらに十両で引き受けたこの仕事ですが、十両のうち1両は秋山大治郎に返しています。
中沢が、大治郎家にこの一両を返しに訪れていた時、「笠原の使いがくる。」秋山大治郎、その妻三冬ともに親しい間柄の笠原先生が嶋屋をでたところで心臓を一突きにされてさつがいされたという。この話を聞いて、中沢は動揺します。
笠原というのは笠原源四郎といい、仕法家というものらしい。
仕法家という職業は初耳でしたが、このころ行き詰まっている大名家の経済立て直しに腕を振るう人のようです。今でいう、経営コンサルタント、のような。
笠原源四郎はこれまで、五家の大名三家の旗本の仕法に成功した、とあります。
老中田沼意次も笠原源四郎を招き、相談をしていたようです。
そんなとき、田沼家で意次が笠原と秋谷親子を引き合わせています。笠原源四郎は小野一刀流を学んでおり、意次のすすめで大治郎は笠原源四郎と立ち会って、三本のうち、一本は笠原に取られています。
笠原急死を大治郎邸で聞いた中沢の顔色の変化をみた小兵衛は不審に思い、弥七や傘徳に中沢を見張るように命じています。
中沢は、一件を依頼してきた平吉と会うため、丸山浄心寺門前の茶店美濃屋で張り込みをします。
門前のもう一軒の茶店三好屋には傘徳が中沢を張っています。
一方、大治郎は中沢の旧師にあたる、牛堀九万之助を訪れる。
中沢は牛堀の門人であったが、以前に気の毒なことがあったという。
中沢は、妻をめとって、所帯を持つようになり、やがて女の子が生まれ、春蔵は秋山小兵衛へ、「天にも昇る心地というのはこのことだと思いました」といかにもうれしげにつげたそうな。
その溺愛する一人娘の千代がかわいい盛りの三歳の夏に急死した。近所の子供たちと遊んでいるときに凶暴な野良犬に首筋をかみ砕かれて死んだ。
中沢四日間その犬を探し遂に発見して首を切ったが、妻は気がくるって、挙句、大川に身投げして死んでしまった。中沢は、酒浸りの毎日になったのはそのあとのこと。
師匠の牛堀は中沢に訓戒を与え、自宅に行って叱りつけもしたようだ。
しかし、牛堀も春蔵を見捨てる。
その後、秋山親子も牛堀から「中沢はおもうところがあって破門しました」
ときいたのみ。
やがて、春蔵は大治郎を訪れるようになり、一年のうち3,4度は顔を見せるようにはなっていた。
大治郎も、いずれ詳しく破門の事情を聞いて何とか身を立てられるようにしてやりうたいと思っていたやさきだった。
平吉は駒込千駄木の提灯屋の2階にこもっていた、嶋屋の女中千とあいびきしている。
平吉は笠原源四郎を親の仇といつわって、千を手引きに使うためたぶらかした。
いよいよ、平吉が浄心寺前に現れます。中沢はこれの後を追います。そのあとを傘徳や弥七も追います。連絡を受けた秋山親子もこれに加わります。
平吉笠原殺害の依頼をした高橋又十郎の屋敷で、又十郎をゆすって百両を得ようとしています。高橋又十郎が平吉の首を絞めて殺そうとしているところへ出ていく中沢春蔵。
さらに後を追って、秋山親子や弥七、傘徳も出ていきます。
中沢春蔵は呆然とこの捕り物を見守るしかなく。
高橋又十郎はなぜ、笠原源四郎を殺すことになったのか。
高橋が酔っ払って、浅草の田圃の細道を笠原とすれ違うときによろめいて笠原にぶつかりそうになって、笠原が身をかわして、高橋が田圃に落ちた時、逆切れして笠原に切りかかったとき、あっけなくかわされて、手刀で倒された時のことを逆恨みしたものらしい。
高橋と平吉と中沢は町奉行所ではなく、幕府の評定所で裁ききを受け、高橋と平吉は死罪。
中沢は3年の遠島で済んだ。

これをわざわざ田沼屋敷に呼ばれ意次からじきじきに聞かされた秋山親子でしたが。
さらに驚くことを聞かされます。意次曰く、笠原は八代の血筋を受けた人。八代とは意次を取り立てた、八代将軍吉宗のこと。

 夕紅大川橋
この回は、終盤、秋山小兵衛にとって痛切な場面が待っています。
終始、同門の弟子仲間ではありますが、小兵衛の兄弟のように思ってきた内山文太への熱い想いが伝わってきます。それだけに終盤の展開は切なさがひとしお。
冒頭は、小兵衛と町医者横山正元が、小兵衛なじみの橋場の料理屋「不二楼」で杯を酌み交わしている場面から始まりますが、二人はある光景を見てびっくりします。
小兵衛にとって辻道場の同門の弟子仲間で、ほぼ同年代の内山文太。剣士変貌にも出てきましたが、今は茶問屋井筒屋の隠居になっています。彼が女と二人で船に乗っているのは、内山文太をよく知る小兵衛にとって思わぬことであったようです。
さらに横山正元には内山文太だけではなく、女のほうも知っています。女は岡場所の女で、正元せんせいも23度抱いたことがあるそうな。
小兵衛と正元せんせいが連れ立って、小兵衛の鐘ヶ淵の隠宅に帰ると、井筒屋の主作兵衛が小兵衛を訪ねてきており、義父の内山文太が行方不明と騒いでいる。小兵衛にとって、内山文太は二人とも無外流の達人辻平右衛門道場の愛弟子であり。かけがえのない同門の親友だった。
作兵衛に言われるまでもなく、小兵衛も正元せんせいも、不二楼で内山文太が岡場所の女と船に乗っているところを見ているのだ。
こうなっては、小兵衛も文太の行方を追わずにはいられない。弥七親分と傘徳さんも加わり、文太の探索が始まる。
そんな中、小兵衛は夜半の雨に、古い記憶を思い出す。40年も昔のこと。内山を訪ねて、辻道場に静という女が来た。女は小兵衛に内山文太宛の一通の手紙を渡す。
さらにその後、すでに亡き下男の八助が言うには、その女と内山文太が連れ立って歩いている姿を浅草御門で見かけたという話。
そんな中、井筒屋に文太の手紙が届く。心配するな、誰の耳にも伝えるな。とある。
手紙を届けに来た中年男を井筒屋の番頭は気を利かせてあとを追う。その男は浅草篠塚稲荷の宿屋に入った。宿屋の名前は田中屋という。文太は駿河国田中の生まれと関係のあるのかないのか。
さっそく田中屋のまわりを見張る小兵衛。しかし、意外とあっさり、小兵衛も驚くほど老け込んだ内山文太が田中屋から出てきます。文太と連れ立って出てきた男と二人で船に乗ったところに小兵衛も飛び乗って文太から話を聞く。
文太曰く、40年前辻道場を訪ねてきたのは弟の嫁の静という。そして、先般っ小兵衛と正元せんせいがみた文太と一緒に乗っていた船の女はなんと孫という。
さらに、静は女の子を生んだがその女の子清は文太の子という。
この間、文太は小兵衛も見たこともない、文太の泣く姿をさらしながら、語ったいきさつは
まあやや複雑で煩雑ですがいろんな事情があったようです。ただ、文太もすべて話しておらず。
娘の命が危ないと言いながらどこかに行こうとする文太を小兵衛が一声のもとに叱る。
「失礼ながら年上のおぬしをこれまで我が実の弟と思うてきた。わしの心を踏みつけにする気か。包み隠さずみんな吐き出してしまえ。」
文太は小兵衛の胸にしがみついて泣きじゃくるほかない。
さて、文太の娘お清は実は真田藩の藩士中村小平次の妻になっていますがそれ以前にくだんの田中屋で女中をしていた時期があり、大工の由松と夫婦になり娘のお直を設けるが、大工の由松は仕事場で足を滑らせ頭を打って死んでしまう。
内山文太が孫のお直を連れてお清のいるところに来てみると、夫の中村小平次が脳卒中で急死して、お清はその遺骸を前に途方にくれているところだった。
またお清も心の臓の病を患っていてむやみに動かすと危ないと内山文太がおもったほど悪化して臥していた。
また中村小平次は200両の大金を隠し持っていることも、文太はあらいざらい小兵衛に話した。
話を聞き終わった小兵衛は文太と連れ立って、文太の娘清と孫のお直のまつ茶店に向かう。
その茶店には別の男たちが向かっていた。中村小平次の200両を狙う男たちだ。
男たちは小兵衛の敵ではなく、あっさり斬られるか捕まるかする。捕まった、高田というこれまた真田藩の関係の浪人の自白によってすべては明らかになります。
弥七親分のおかげで、清や直、文太に火の粉がかからないようになっています。
さてそのお清ですが正元せんせいいがひきとり先生の投薬のおかげで体調を持ち直します。
さらに、驚いたことに、正元先生はお直と夫婦になることになったとあります。
最終盤、小兵衛が碁を打つため小川宗哲先生のもとを訪ねてお清の体や小兵衛が数日前にみた文太の様子を話してそのあと元長に寄っているとき、突如おはると井筒屋の番頭が飛び込んでくる。
おはるの顔は泪だらけになっている。
内山文太が急死したという。
井筒屋が迎えの籠を寄越してきたから早くそれに乗ってくださいよう、というおはるへ、何物も寄せ付けない厳しい姿勢を見せて「内山文太の死に顔は見たくない」わしの代わりにお前が行け
そういって飛び出していく小兵衛。通りかかった大川橋でが土地の無頼が騒ぎを起こしていたが、まるで天狗のように早業でこの無頼たちをかたづけさっていく。
小兵衛が宗哲先生に語った。内山と自分はこの世で最も長く親しんできたので自分の半身のように思えると話したばかりであっただけに、その半身を奪われた悔しさが最後の場面を象徴するように思えます。


0 件のコメント :

コメントを投稿