2018年3月30日金曜日

黄砂の進撃(講談社文庫) 松岡圭祐

入院中読んだ本です。会社の上司からお見舞いで頂きました。
清朝末期の中国が舞台で、しかも、ガッツリ義和団がテーマです。なかなかマニア。
同じ時代背景の本は、浅田次郎氏の「蒼穹の昴」、「珍妃の井戸」、「中原の虹」
を既に読了済です。ただ義和団、アヘン戦争、あたりはまだ私の中で闇の世界だったので興味深く読めました。義和団事件に至る清の状況は戦国末期の日本に近いものを感じます。オランダやスペインがキリスト教の布教に名を借りて貿易特権を支配層の大名と取引しています。日本ではその危険性を感じた秀吉や徳川幕府から締め出しを受けてますが、欧米人のアジア人を侮蔑する価値観は現代でも通じるものがあります。特にインドや中国では犠牲者が多く、歴史上凄惨な事件がこれらの土地で繰り広げられます。抗ったのは義和団、セポイの乱などで
セポイの乱は義和団事件のたった43年前の出来事ですアジアの人々にとって不当に搾取され、隷属を強いられた暗黒の19世紀と言っていいです。
この本では、義和団が乱を起こすに至った経緯が、やや淡々と描かれていて、
義和団が外国人排斥に至ったまでの動機やエネルギーの源が掴み辛かったです。清朝政府の腐敗もあるんでしようが、序盤で繰り広げられる教民()への攻撃が端緒になっている割に、教民と中国人との様々な軋轢があるんだろうなー、と読み手が勝手に想像する他なくバルヒェット神父の一件も、地元の中国人から先に手を出したことになっていて、キリスト教やモルモン教の勢力が圧倒的な悪とされておらず、多少、人でなしな行為があったんだろうな、と思わせているが、その後の義和団決起の狂ったような殺戮に至る怒りの理由とするには力不足に感じました。
そんなモヤモヤ感を抱きながら後半の北京での東交民巷の戦いに入って行きます。
どうやら、同じ作者による、義和団の戦いのメインの舞台になったこの東交民巷の籠城戦は別の作品があり、黄砂の籠城(上-下 講談社文庫)に纏められているようです。籠城戦の主人公は日本人の駐在武官 柴五郎です。
一方本作の主人公は義和団の指導者張徳成と言う架空の人物です
義和団の決起の動機に関してカオスなままクライマックスに入りますが、主人公の台詞には断定的に外国人宣教師と中国人農民との軋轢がありますが、
やはり、その場面を描写したシーンはほとんどないままです。
義和団が民衆反乱だったのか、清朝から煽られて北京の東交民巷の外国人公館を襲撃したのか、読後もモヤモヤ残ります。実際に何の記録も残ってないんでしょうか。作中に出てくる。軋轢の記録とされている地方の瓦版が現存していればいいのですが。
例えば日本の島原の乱は圧政と宗教弾圧に耐えかねた農民の大規模反乱ですが。
ああいった形で悪役、松倉勝家、寺沢堅高があればわかりやすいんですが、義和団事件ではそういった代表的な個人は出て来ない。宣教師とだけあるのみ具体的な宗教団体名もない。あえて言えばキリスト教、場所が山東省が中心地なので、ドイツ系教会勢力。
ん、ドイツ系教会勢力といえば、中世スラブ地方に布教を名目に勢力を拡大しながら悪虐の限りを尽くした宗教騎士団がいましたね。さてこの本はそこそこ読み始めるとサクサク読めますが上記のようにモヤモヤ感が続くのであまりおすすめしないです。ただ中国人の視点として描かれて無理がない部分は大変評価できます。



0 件のコメント :

コメントを投稿